思い出事件録

朱色の小物入れ

2008.01.25

この10年間、使っている小物入れがあります。

上品な朱色の鹿の子縮緬を丁寧に手で縫い上げてあるもので、通帳をいれるのにちょうどいい大きさです。ずいぶん古ぼけてしまったのですが、どうにも愛着があり使い続けています。

実は、この小物入れは、10年ほど前に、あるクライアントの方から、御礼にといただいたものでした。ところが、この小物入れ、毎日のように持ち歩いているにもかかわらず、年月が経つうち、また、日々の忙しさに紛れるうちに、どなたからいただいたものなのか、次第に記憶が曖昧になっていきました。時々、記憶をたどってみても、定かには思い出せないままでした。

そんな折、遺言の作成を担当させていただいたAさんが亡くなられ、私が、遺言執行者として、Aさんの相続財産を管理することになりました。

銀行に貸し金庫があるというので、中身の確認をしていた時のことです。貸し金庫の中の書類の中から、どこかで見たような鹿の子縮緬の小物入れが出てきました。色合いや柄はもちろん違いますが、まさしく、私がずっと使っている小物入れそのものでした。

その瞬間、私の記憶の中には、小物入れをプレゼントしてくださったあの時のAさんの柔和な笑顔がはっきりと蘇りました。そうでした。Aさんだったのですね。・・・こんな形で、また、Aさんの思い出と出会えるとは思ってもいませんでした。

人生の終焉には、必ず、その人の有していた財産を別の人にバトンタッチする必要があります。そのバトンタッチをスムーズに進める方法のひとつが「遺言」の作成です。遺言の作成を依頼されたクライアントの方とは、その時から、長いおつきあいが始まります。そして、長いおつきあいの後、クライアントが亡くなると、悲しみを心の奥底に押し込め、今は亡きクライアントの方の遺志が実現されるよう全力を尽くすことになります。

その後、Aさんの遺言執行者としての任務は無事完了し、
古ぼけた朱色の小物入れは、私の大切な宝物となりました。

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