法律よもやま話

民事信託~財産管理と資産承継の手段として~

2017.02.08

私は東京練馬西ロータリークラブに所属しているのですが、年に1回、卓話の順番が回ってきます。

先日、「民事信託」をテーマにお話をさせていただきました。

変更をプレビュー

お話しした内容をぎゅっと凝縮して、ご紹介したいと思います。

 

1 はじめに

信託は以前から「水に浮いた油のように異質な存在」と称されることもあり日本においては馴染みのない制度だったのですが、新しい信託法が平成19年に施行されて約10年が経過しようやく民事信託が浸透し始めています。私が今日お話しするのは、信託銀行が扱う「商事信託」とは異なり、免許のない者が営利を目的とせずに行う「民事信託」とよばれるものです。

2 信託の基本構造

今回は、夫A(70歳)、妻B(68歳)、長男C(40歳)、長女D(38歳)、長女のDの子E(8歳)という家族をモデルにしてお話ししましょう。ちなみにAさんはまだまだ元気ですが最近物忘れがひどくなり認知症を心配しています。

信託の基本的な登場人物は、「委託者」「受託者」「受益者」の3人で、財産を持っているA(委託者)が、信託行為(信託契約・遺言等)によって信頼できるC(受託者)に対して、金融資産・不動産等の財産(信託財産)を移転し、受託者Cが一定の目的(信託目的)に沿って、受益者ために信託財産を管理・処分する法律関係を指します。これから、この民事信託が「財産管理」と「資産承継」の手段として実はとても優れている、というお話をしたいと思います。

3 Aさん家族の未来の3つのストーリー

パターン1 何も対策をしない場合⇒財産管理・資産承継は混乱する

(1)Aの認知症がすすみ判断能力が減退するとAは財産管理ができなくなります。意思能力がない人の法律行為は無効になるため、売買契約、請負契約、賃貸借契約等の契約ができなくなり相続対策なども暗礁にのりあげます。銀行窓口で預金引き出しに応じてもらえないケースも生じます。

(2)Aが亡くなった場合、遺言がなければ相続人間で遺産分割協議を行うことになります。法定相続割合どおりに分けようしても、誰がどの財産を取得するかでもめますし不動産の価格をいくらと評価するかでもめます。同居して世話をしてきたCは寄与分を主張するでしょうし、逆にDはCには特別受益があったと主張します。どんなに仲のよい家族であっても、それぞれに生活状況が異なり配偶者が応援団となりますので、少しでも多く取得したいという意見がぶつかりあうこともままあり、いわゆる「争族」になる例は後を絶ちません。

パターン2 対策(成年後見と遺言)をする場合⇒やはり限界がある

(1)認知症がすすんで判断能力が恒常的に減退したら家庭裁判所に成年後見の申立をします。成年後見人が決まれば、財産管理と身上監護に関する法律行為を行えますので、銀行預金からお金を引き出すことはできますし賃貸管理などの法律行為もできるようになります。一見、財産管理は滞らないように思われますが、実は成年後見人が行う財産管理には大きな制約があります。たとえば預金を投資に回すことはできません。自宅を売却する場合は家庭裁判所の許可が必要となります。孫Eへの毎年の贈与も継続するとは限りません。遊休地に賃貸マンションを建設して相続対策をしたいと考えても成年後見人はそのような行為はできません。妻Bが先に死亡して、「全ての財産を子どもCDに相続させる」という遺言があった場合でも、成年後見人はAの遺留分減殺請求権を行使して妻Bの財産を取得します。すなわち、成年後見人の行う財産管理は、いかにAの財産を守り減少させないかという観点から行いますので柔軟な財産管理は望めません。

(2)遺言を書いたとしても遺言は万能ではありません。遺言は基本的に1つ先の代までしか相続する人を決められませんし、誰にどの財産を相続させるかという点しか決められません。具体的には、長男Cが死亡した場合にその先の財産を誰が承継するかについては決められませんし、銀行預金は孫のEが大学に入学したら毎月所定の額を承継させたいという内容は決められません。

パターン3 民事信託を利用する場合⇒万全な財産管理・資産承継が可能に

 民事事信託を利用する場合、以上のような不都合な点はほぼ回避することができます。

(1)Aは、長男Cとの間で、Cを受託者として、Aの金融資産及び不動産等を信託財産として、相続対策も含めた財産管理と生活保障を信託目的とした信託契約を締結します。当初の受益者はA自身としておけば、Cが賃貸アパートの管理を行い、賃料収入はAが受け取れるようにしてくれます。Aが判断能力を失いもはや契約が締結できない状態であっても、Cが信託目的に従い、遊休地を活用することも金融資産を投資に回すことも可能になります。信託財産はC名義になりますが、C固有の財産とは分別して管理されるので、仮にCが破産したとしてもCの財産からは隔離されて保護されます。

(2)さらに、Aが死亡した場合の受益者は妻Bにしたり、信託終了時の残余財産の帰属先をB、C、D、Eに定めておくことで、遺言を作成したことと実質的に同じ結果を得られることになります(遺言代用信託)。特に、遺言では認められない二つ先の代以降の財産承継者の指定が可能となる点で大変効果的です(後継遺贈型受益者連続信託)。さらに、不動産の共有や事業承継、先祖代々の土地の承継などの場面でも民事信託は力を発揮します。

4 民事信託の可能性

民事信託は、柔軟かつ長期にわたり財産管理や資産承継についての道筋を決めておけるという意味では紛争予防のための最大の手段といえます。各ケースに応じて大いに工夫の余地がありますので、オーダーメイドでベストの設計していく必要があります。是非、皆さんも民事信託の活用について検討されてください。

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  『相澤法律事務所』 弁護士 相澤愛

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