思い出事件録

薬代稼ぎの万引き

2008.02.27
もうひと組、記憶に残る姉妹がいます。

年のころは、姉は20歳くらい、妹は高校生くらいだったでしょうか。

姉妹で原宿のショッピングセンターで万引きをしていたところを、
巡回中の私服警察官に逮捕されたのです。
バーゲンセールでごった返す買い物客の鞄から、財布を抜き取るという手法でした。
一度うまくいくとやめられなくなり、被害者は10名を超えていました。

当番弁護士で待機していた私は、連絡を受けて、妹の弁護人・付添人を担当することになりました。

会ってみるとごく普通の女の子。

補導歴もなく、学校も真面目に通っており、よもや万引きをするとは・・・と周囲も驚く状況でした。

訳を聞くと・・・。

実は、姉妹のお父さんが、癌の宣告を受け、入退院を繰り返しているが、余命は長くないとのこと。せめて、一日でも長く長生きしてもらいたい、との思いから、姉と相談して、当時話題だった『プロポリス』を買って飲ませてやりたいと思うようになった。でも、プロポリスはとても高価なものなので、毎日飲ませてやるために、せっぱつまって万引きをしたのだ話してくれました。

お父さんのためを思い犯行に及んでしまったわけですが、逮捕されて冷静になってみると、万引きしたお金で買った薬をお父さんが飲んで長生きしたとしても、お父さんは少しもうれしくないことを十分にわかったようでした。

もちろん、万引きという行動は許されることではありません。
ただ、動機には斟酌すべき事情がありました。
本件犯行に至る前も、この姉妹は、アルバイトをしては、家計を助けて必死に生きていました。

本件犯行に至る経過や動機などを丁寧に裁判所に伝え、この少年は、いったん試験観察となり、最終的には保護観察で終了しました。

その後、アルバイトでためたお金で、家族4人で温泉に最後の思い出旅行に行くことができました、という手紙がきました。はじけるような家族4人の笑顔がうつった写真も同封してありました。

もう7.8年前の事件でしたが、あの少年は、もう立派な成人になっていることでしょう。
介護士になりたい、と言っていた夢はかなったのでしょうか・・・。

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   『相澤法律事務所』 弁護士 相澤愛
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